先日、久し振りに(そうです十年振りです)学生達との授業を体験した。与えられた時間は九十分。この条件の中で創る事、自分を表現する事の面白さ、豊かさ、奥深さをどこまで面白がってもらえるか。欲張っても仕方ないのでシンプルに、舞台という狭い、しかも観客席に固定された人間を相手にその想像力(創造力)をどう刺激する事が出来るか。そこに中心を据えて準備した。当日授業に参加した学生は五十余名。かなり沢山の人数だ。

「今日は。日本には一期一会という言葉があります。(国際交流で外国の学生も沢山参加している)私とあなた方がこうしてお逢いするのも多分今日一回限りだけだと思います。その今日の一日を楽しく、お互い逢って良かったと思われるような、そんな一日にしたいと思います。よろしく」との私の挨拶で私の授業は始まった。「演劇は幕が開いてから閉じるまでの時間内で何かを創り、それも観客と一緒に創り上げるという時間の芸術です。それともう一つ、この狭い空間内ですべてを創り上げる、空間の芸術です。アップする事もロングで引いて遠くから全てを観てもらう事も出来ません。そこで今日は、この空間を使うという事から始めたいと思います。あなた、立って、あそこに行ってくれませんか。ありがとう。次はあなた、あそこに行って後ろ向きに坐ってくれませんか。ありがとうetc。今までは全て一人の人間にやっていただきました。その事を沢山の人間にやってもらうとどうなるでしょう。そうなんです。沢山の人間がそれをやると、一人でやっているのとは違ったメッセージを送る事が出来るんです。では、今やった事を参考にして、私の提出する課題を舞台上に創って下さい。では最初は希望。ありがとう、次のグループも同じ希望を。はい、ありがとう。では次は絶望。そう皆が絶望するよりも、どこかに絶望とは異なった表現がある方が絶望が際立ちますよね。はい次は・・・」次から次へと課題を提出したが、やらなかった学生。グループは一つも無し。この積極性、行動力、なぞらないで自分を出す豊かさ!すごい。たいしたものだ!学生達のエネルギーに刺激されて、私の方でも増々エンジンがフル回転!そして「皆さん『ロミオとジュリエット』という作品御存知ですか。知らない方も何人か居ますね」そこで『ロミオとジュリエット』を説明して「では十五分でその『ロミオとジュリエット』の予告編、そう二分か三分の予告編を創って下さい。時間は十五分。いいですね。是非『ロミオとジュリエット』を観たいという予告編を創るんですよ。」そして広いけど五十余名の学生達には狭い会場は熱気でムンムン。さぼっている学生は一人も無し。「五分延長します。後五分したらこちらのグループから発表してもらいます」そして発表。すごい!たった二十分で自分達のものを創っている。「そう、社会に出ると、明日までに、一週間で、一ヶ月でと期間を決めていろいろなものを創る事を要求されます。あなた方は、たった二十分でこれだけのものを創り上げました。時間をかければもっともっと良いものを創る事が出来ます。しかし、今ある条件の中で何かを創る、それが基本です。それをやりとげた今日の自分に誇りを持って下さい。そしてこれからも今ある条件の中で自分を生かし創り続けて下さい。一期一会、今日は本当に楽しかったです。ありがとうございました」

若者よ、ありがとう。創る勇気、喜びをあなた方からいただきました。