ギア・チェンジ

突然、何の前触れもなく、中央公論社発刊の「日本の名著」「世界の名著」の手元に置いてあるものを読み始めた。四十五、六年前(私の三十二、三頃)俳優学校卒業後入団した劇団を退団し、「さて、これから先どうするか」と、仲間達と勉強会やら「劇団」らしきものを作り、週何回か書店でアルバイトをしていた頃に買い揃えた全集。「世界の名著」全八十一巻、「日本の名著」全五十巻。バイトをしていた関係で少しは値引きしてくれたが、一冊千円ぐらいの本。当時の私にとっては大変な決意。それぐらい迷っていたし、何かを探し求めていたのだろう。読んで手元に残すものは残し、必要なしと判断したものは処分して、段々少なくなり、最後に残ったものが今回読み進んだ「夏目漱石・森外」「河上肇」「日本書記」「世阿弥」「道元」「法然」「親鸞」「近代の芸術論」「フロイト」「ユング・フロム」「バラモン教典・原始仏典」「大乗仏典」「聖書」「老子・荘子」「孔子・孟子」「諸子百家」「禅語録」「アリストテレス」「エラスムス・ トマス・モア」「ダ―ウィン」「プルードン・バクーニン・クロポトキン」「アダム・スミス」「マルクス・エンゲルス①」「マルクス・エンゲルス②」の二十四冊。そして読了後、手元に残ったのが「世阿弥」「道元」「法然」「親鸞」「フロイト」「ユング・フロム」「聖書」「禅語録」「アリストテレス」「マルクス・エンゲルス①」「マルクス・エンゲルス②」の十一冊。これから後、これを読む機会が後何回ある事か。そして、その後「古今亭志ん生」「立川談志」「林家三平」を読み、「ああそうだ。五月末公演の「市民劇場TAMA」の演出、演技指導のアドバイスを三月末と五月の計二回頼まれたので、その準備をしておかなければ」と原作者の「柳美里」さんの本を読み始めましたが、さあ、これが大変、見事に嵌まってしまい、この処、時間さえあれば「柳美里三昧」の毎日。自分にはまったく無い何か・・・、いや、自分の中にあって自分では気付かなかった何かを提示された驚き、そして、それは何なのかを知りたい興味・・・。とにかく今は、気持ちが一段落するまでは「柳美里」を追求してみたい、そんな今日この頃です。そう、何かが変化、ギア・チェンジしたのだと思う。七十代から八十代へのギア・チェンジ。今までもそうだった。五十代から六十代へ、六十代から七十代へ。ある時期、突然に「あれっ・・・」と思っているうちに「ははあ、そうか。チェンジしたんだ」と納得。さて、今年は七十八才。しかし昨年までの自分とは変化した自分があるはず。力まずに、あせらずに、日一日を楽しんで・・・。まず、そう三月の「起てハムレット」をじっくりと・・・。